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2025年10月20日月曜日

立川孝一氏を悼む

 

追 悼

立川孝一氏を悼む 

 そういえばこれもたまたまなのだが、フランス革命史家の立川孝一さんがいつの間にか筑波大学の名誉教授になっていたことをネットで見て驚いたが、さらに驚いたことには、その著述が30年前で止まってしまっていたのだ。すなわち『フランス革命と祭り』(1988年11月・ちくまライブラリー)と『フランス革命――祭典の図像学』(1989年7月・中公新書)の二著しかない。いずれも啓蒙書なので、そういう類いはもう書かないとしたのか。まだ調査が及んでないが、専門書や欧文の書目があるやも知れぬ。 










 

 



 あれはフランス革命200周年の年だから1989年のことだ。ということは今から28年前のことだ。と書くために引き算をして、自分でショックを受けた。とても30年前のこととは思えない、あたかも昨日のことだというのは無論レトリックだが、一体全体わたしは30年もの間むざむざと何をしてきたのであろうか?  

 これは別稿(「悪の倫理学・覚え書き その9」)でも書いたが、この当時友人達と読書会を開いていて、そのなかの数回がフランス革命だった。たまたまフランス革命200周年ということで様々な論著が公にされたり講演会も開催されていた[1] 

 その中に先に挙げた立川氏の著作も含まれていて、一読、大変優れた批評眼をも兼ね備えた若手の研究者であることがうかがえて、やがては、網野善彦や阿部謹也のような日本を代表する歴史家になるだろうと思っていた[2] 

 例のごとく、わたし自身が天路の奈落よろしく知的活動から長期的な撤退を余儀なくされて、他の方の行く末、来し方をどうこう言う立場にはないのだが、それにしても、一体何が起きたのだろうか。いや、何も起きていないのか? 良心的な研究者は得てしてこんなふうになってしまうのだろうか? つまりご自身の研究への到達目標が高過ぎて一般的な著作にまで至らないのか。 

 研究領域がわたしの関心といささかずれるので、これ以上深追いすることはないかもしれぬ。しかしながら、機会があれば「調査」を続行したい。 

web sight『鳥――批評と創造の試み』2017年3月29日(水曜日))

 

と、書いたのは、今を去ること8年前の2017年のことだった。今朝、偶々ネットを見たら、立川氏が2022年の8月に亡くなれていたのを知った。享年74歳のようだ。言葉がない。ただ、ご冥福をお祈りするばかりである。

以下、立川氏の著書を挙げ、その業績の一端を忍ぶ(よすが)としたい。

立川孝一著作一覧

著書

1.       『フランス革命と祭り』筑摩書房 ちくまライブラリー 1988

2.       『フランス革命 祭典の図像学』中公新書 1989

3.       『歴史家ミシュレの誕生』藤原書店 2019

翻訳

4.       モナ・オズーフ『革命祭典――フランス革命における祭りと祭典行列』岩波書店 1988

5.       ミシェル・ヴォヴェル『フランス革命の心性』槇原茂、奥村真理子、渡部望共訳 岩波書店 1992

6.       ジャック・ル・ゴフ『歴史と記憶』法政大学出版局(叢書・ウニベルシタス)1999

7.       ミシェル・ヴォヴェル『革命詩人デゾルグの錯乱――フランス革命における一ブルジョワの上昇と転落』印出忠夫共訳 法政大学出版局 (叢書・ウニベルシタス) 2004

8.       ジュール・ミシュレ『フランス史』1-4 大野一道と監修 藤原書店 2010

web sight『鳥――批評と創造の試み』2025年10月20日(月曜日))


*[1] たまたま、ある講演会(おそらく1989年10月8日に日仏会館にて開催された)で立川氏を見かけたことがある。ある「偉い」先生の講演のあと質問されていた。長髪だった。「立川というものです」と言って、その講演者が「もちろん、存じ上げてますよ」と返すと会場が爆笑に包まれた、というのはわたしの偽造の記憶なのだろうか?

*[2] これは、単なるわたしの不勉強の故の無知によるもので、斯界では既にそうなっているかもしれない。マスメディアに登場しないことをもって非力だとは、無論言えぬであろう。しかし……。

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