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2026年10月27日火曜日

普通の人を描く困難 ―― 村上龍『55歳からのハローライフ』

 

⚽村上龍を読む

普通の人を描く困難

村上龍『55歳からのハローライフ』

【読書メモ】

■2026年10月27日読了

■採点 ★★☆☆☆。

村上龍の訃報に接し、十数年ぶりに彼の作品を開いた。今回読了したのは『55歳からのハローライフ』である。

作品としてはそこそこ面白く読めたものの、読後感はどこか秀逸なテレビドラマのようであり、山田太一の作品を彷彿とさせた。収録作の「空を飛ぶ夢をもう一度」という題名は、山田の小説『飛ぶ夢をしばらく見ない』へのオマージュかもしれない。かつて村上は『最後の家族』において、小説およびテレビドラマ脚本の両面で山田的な世界観に挑んだが、その試みは失敗に終わっていた。しかし山田の場合、小説の文体、内容、構成は自身のシナリオのそれとはまったく異なっており、シナリオという映像表現では不可能な領域をこそ小説で描こうとしていたのである。問題はそこにある。

本作は、あらすじやストーリーとしては確かに面白い。しかし、文学・小説として見たとき、村上龍が到達したはずの文学的極点からすれば遠く及ばない印象を受ける。結局のところ、「普通の人」が普通に挫折し、立ち止まり、逡巡し、言葉を失うという「普通のこと」をいかに表現するかという点において、村上の持つ文学的世界と何らかの摩擦や違和感が生じているのではないか。言い換えれば、村上の特異な文学世界は、やはり特異な内容にこそ強い親和性を示すということなのだろう。

各話のモチーフとなっている飲み物(アールグレイやプーアル茶など)の意味については、判然としない部分が残った。いずれの収録作も描かれている内容は切実であり、読んでいて正直つらさを覚えた。特に路上生活者を扱った「空を飛ぶ夢をもう一度」(題名や中心人物の行動の意味に不明瞭さが残る)や、ペットの死を描いた「ペットロス」は重い後味を残す。一方で、新しい人生の予感を描いた「結婚相談所」や「キャンピングカー」は、中心人物が当初思い描いていたのとは異なる形で事態が展開していく構造が秀逸であった。また「トラベルヘルパー」は物語として面白かったものの、冒頭や結末において、実際に中心人物がトラベルヘルパーとして現場で活躍している姿が具体的に描かれていれば、より良かったのではないかと思われる。

全体を通して、「普通の人」を「普通に描く」ことの難しさをあらためて実感させる一冊であった。

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2026年10月27日 10:37

987字(3枚)