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2025年7月7日月曜日

自転車 Ⅱ

 

 

自転車 Ⅱ


 


 自転車を漕ぐ足が重い。駅からの帰り道はいつもこんなに長かっただろうか。夕焼けがビルの谷間に沈みかけ、あたりは茶色い光に染まっている。

俺はしばらく急な坂道を下っていく。

 ふと、目の前の坂道が、子供の頃住んでいた街の風景と重る。確かに見覚えがある。

いや、まさか。なぜ俺は今、ここにいる?

耳を澄ますと、低い轟音が響いてくる。最初は雷かと思ったが、どうも違う。地鳴りのような、不穏な響きだ。爆撃ではないのか? まさか、戦争? 急に? 自転車に乗っている俺には、ニュースを確認する術がない。情報から遮断された空間で、不安だけが募る。

 と思っていると、爆音とともに炎が吹き上がる。左の山の斜面が爆撃されているではないか。どういうことだ? そんな事がありうるのが? 爆撃機は見当たらない。ということは単なる自然発火による爆発か? しかし、それが5つも、6つも連鎖的に発生するのはおかしくないか?

 すると、自転車走行中にも関わらず、急な眠気に襲われた。瞼が重い。こんなところで目を閉じるのは危ない。わかっているのに、抗えない睡魔に身を任せてしまった。

次に目を開けた時、俺は舗装されていない山道を自転車で走行していた。左右を木々に囲まれ、砂利道がどこまでも続いている。よく事故らなかったな、と背筋が寒くなる。

わけがわからないまま来た道を戻ると、見慣れた幹線道路に出た。しかし、そこには巨大なショッピングモールが聳え立っていた。

俺は、ふとある記憶を思い出した。そのモールの中で、小6から高1まで密かに思いを寄せていた明智ヨソ子と偶然出会ったのだ。確か、今は亡きレコード・ショップの新星堂の前だった。当然のことながら、俺は彼女を無視した。この当時、性別の違いを越えて、校外は無論のこと、校内でも自由に話したりする習慣がなかったのだ。その後、高1の時にラヴ・レターのようなものを出したが、呆気なく撃沈した。ヨソ子は面食いだったのだ。止むを得ない。

その時、モールの中にはクリスマス・ケーキの出店が出ていたから、冬だったのだろう。

あの日と同じ、空気が肌を刺すような寒さだ。だが、俺がいるのは、あの時の街ではない。いったい何が起こっているんだ?

 

自転車 Ⅱ

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①840字(400字詰め原稿用紙換算3枚) 

20250707 1935

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