📚読書ノウト📚 🐑村上春樹を読む🐑
「僕はもう二度とあの人たちには会えないんだな」
村上春樹・佐々木マキ『羊男のクリスマス』
■村上春樹・佐々木マキ『羊男のクリスマス』1985年11月25日・講談社。
■1,700円(税込み)。
■絵本。
■67ページ。
■ブックデザイン 菊地信義。
■2021年3月17日読了。
■採点 ★★☆☆☆。
以前、読んだときはさほどとも思われなかったし、そもそも羊男の初出である『羊をめぐる冒険』(1982年・講談社)における「羊」、あるいは「羊男」の置かれていた、いささかシビアな状況からすると、換骨奪胎もここまでくると、何をかいわんや、という感想しか浮かばなかった。
しかし、そうは言いながら、当たり前だが、まさにここには、これこそ村上春樹的世界というしかないものがある。
いわゆる冥界譚ということになるが、例のごとく、主人公は穴を掘る。もう、とにかく穴を掘らずにいられない。
掘った先には異界が待ってはいるが、むろん、これは主人公の心、河合隼雄的に言えば「魂」の世界である*が、問題はその世界でも、最後の決断によって、穴に自ら落ちていく。そして、そこで初めて、自らに「親和的=神話的」な世界と「際会=再会」することができるのだ。
*河合隼雄・村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』1996年・岩波書店。
目が覚めた羊男は述懐する。
「僕はもう二度とあの人たちには会えないんだな」と羊男は思った。(中略)
そう思うと羊男の目から涙がこぼれた。(本書・p.66)
「あの人たち」とは彼が「夢」=「魂」で出会った「ねじけ」や「ふたご」*たちのことだが、なぜ、二度と会えないのか? 「死者」だからである。死んでしまって、少なくともこの世にはいないから、現実世界では彼らには会えない。
*「208」、「209」というプリントされたTシャツを着ているふたごの少女たちは村上第2作『1973年のピンボール』(1980年・講談社)で初登場した。無論、小山鉄郎※の指摘を待つまでもなく「208」、「209」はいずれも昭和20年8月、昭和20年9月を意味すると考えられる。つまり、アジア太平洋戦争の敗戦の年と月、及び、その後の混乱の1月を表している。つまりは二人とも「死者」であろう。
※小山鉄郎『村上春樹を読みつくす』2010年・講談社現代新書など。
そもそも、「羊男」とは『羊をめぐる冒険』初出形ではすでに死者となっていた「鼠」の代行者として現れることはつとに有名だ。
言うなれば、羊男がさような冥界性を獲得する所以がここに描かれていると言ってよかろう。
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2021/03/18 19:35
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