石坂洋次郎『乳母車/最後の女』
■石坂洋次郎/三浦雅士・編『乳母車/最後の女――石坂洋次郎傑作短編選』1953年・1966年・1972年/2020年1月10日・講談社文芸文庫。
■短篇小説選集。
■2020年3月18日読了。
■採点 ★★★☆☆。
忘れさられた往年のベストセラー作家・石坂洋次郎の短篇小説集。ほぼ同時に刊行された、三浦雅士による迫真の石坂論『石坂洋次郎の逆襲』 (2020年・講談社) とともに、石坂の再評価を迫るものだ。
石坂については様々な観点から論ずることが可能であるが、とりわけ短篇小説の巧みさについては論を俟たない。
やはり、この点について言えば、表題作「乳母車」を以て嚆矢とすべきであるが、詳細は三浦の解説に詳しい。要は、あたかも登場人物に乗り移られたかのように、意識、無意識問わず、その心理描写、あるいは、その暗示が展開される。すなわち「意識の流れ」の追求がなされている。ただ読者側としては、ただただ、そのジェットコースターにでも乗ったかのように、物語の展開に身を任せるばかりなのだ。
ついでに言うのであれば、この戦後しばらくしてからの世情*や会話、男女の接近の仕方の様子も面白い。
*例えば、このころは男女問わず「オス!」と挨拶していた、多摩川(二子玉川)で水泳をしていた、主人公の両親はともに謡曲をうなっているなど。
個人的な好みを言うと「草を刈る娘」。短篇連作集『石中先生行状記』からの抜粋「無銭旅行の巻」。あるいは「最後の女」が東北の? ある時代が持ちえた習俗を描いて興味深く読めた。
これは、たまたまそうなのか、何らかの影響関係があるのか判断に困るが、つげ義春の漫画のいくつかに雰囲気が通底している。今手元につげの作品が一冊もないので、これについて深く論ずることはできぬが、影響関係でいえば、つげが石坂を読んでいたということになる。あるいは何か別の理由があるやも知れぬ。
さて、長篇小説についてはわたしは未読であり、さらにその映画化作品についても未見である。
入手困難ではあるが、ぜひ読んでみたいと思う。
🐤
2020/03/18 13:39:39

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