いささか精彩を欠く
■紀行文集。
■2018年3月24日読了。
■採点 ★
うーん、いままで多くの名作紀行文をものしてきた村上春樹の作としてはいささか精彩を欠く。文章、あるいはその描かれるところの外的世界についても今一つ緊密な集中感のようなものを感じるところがない。
言葉がよくないかもしれぬが、言うなれば「仕事」で書いている、という感が否めない。つまり筆者の個人的な「娯しみ」が伝わってこないのだ。
まー、そういうこともありますよね。
そういう観点からすると、吉本由美、都築響一との共著となる快作『東京するめクラブ――地球のはぐれ方』は脱力加減と謎の情報量の多さという点で、とても面白かった。
しかしながら、村上春樹の紀行文の真骨頂は何をおいても『雨天炎天』、なかでもギリシャ正教の隔絶した宗教的世界を描いた「アトス――神様のリアル・ワールド」に棹を指すと言っても過言ではない。この紀行文は「娯しみ」とは対局にある「過酷さ」の通じて、ある種の村上作品が持つ超越性への方向性を持つ。それでいて黴パンをうまそうに食べる猫の姿には微かな笑いを禁じ得ない。 とてもユニークな作品である。
他にも村上春樹の紀行文には『遠い太鼓』や『辺境・近境』などがありいずれも楽しませる。
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【参照文献】
・村上春樹・吉本由美・都築響一『東京するめクラブ――地球のはぐれ方』 2004年・文藝春秋。
・『雨天炎天』1990年・新潮社。
・『遠い太鼓』1990年・講談社。
・『辺境・近境』1998年・新潮社。
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■2018年3月29日 14時10分

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