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2016年11月19日土曜日

裸の王様の裸躍り

【格闘技を読む】

裸の王様の裸躍り


単行本

文庫本

■柳澤健『1976年のアントニオ猪木』2007年3月15日・文藝春秋。 
■長篇ノンフィクション(プロレス・格闘技)。 
■2016年11月18日読了。 
■採点 ★★★★☆ 


 大変に面白かった。巻を置くを能わず、とはこの事だ。惜しむらくは猪木本人への取材がならなかったことだ*。これを除けば、素晴らしいスポーツ(?)・ドキュメンタリーと言える。 

   *猪木本人へのインタヴューはその後『完本』として、文庫版には収録されている。 


 1976年にプロレスラー・アントニオ猪木は3つのリアル・ファイト*を戦っている。いうまでもなくその一つは、世紀の凡戦と酷評されたプロボクサー・モハメッド・アリとの一戦である。しかしながら、現在の総合格闘技の起源とも云うべき試合がこのアリー猪木戦だったのだ。 

  *プロレスが結末の決まった一種のショウであることは云うまでもないことである。それに対して「リアル・ファイト」とは通常のスポーツのような真剣勝負を指す。三つのリアル・ファイトとは 
①ブロボクサー・世界ヘビー級チャンピオンモハメッド・アリ 
②韓国のプロレスラー・パク・ソンナン 
③パキスタンのプロレスラー・アクラム・ペールワン 、この三戦を指す。 
 本書では、実際にはリアル・ファイトではなかったウィリエム・ルスカとの試合にも多くのページが割かれている。 
  
 一読して何点かの感想をもった。 
 ひとつは他の三つの試合についてはテーマがぶれるのでアリ戦について絞って書くべきだった、ということだ。テーマはずばり「アリvs.猪木戦とは何か」である。  
 それとは別にぜひとも筆者は「1976年に限らず猪木の全体像を描く『アントニオ猪木正伝』を書くべきだということだ。 無論そこにはUWF*のことや愛弟子佐山聡(初代タイガーマスク)のことも含まれるだろう。 

  *筆者は現在『1984年のUWF』を連載中である(柳澤健『1984年のUWF』/『sports graphic NUMBER』2015年12月~・文藝春秋) 

 二つ目はオリンピック柔道金メダリスト・ウィリエム・ルスカについてプロレスが下手(ショウとしてプロレスができない)で使いようがないようにプロレス関係者から見られていたと書かれているが、猪木側からすればそれはそうなのかも知れぬが、本来のスポーツ、武道、格闘技の視点に立てば、むしろルスカの側に本来の実があると考えられる。おかしいのは明らかにプロレスの方だ。ルスカという悲劇的な柔道王についても詳細な伝記が必要だろう。題名は「へーシンクになれなかった男」ではなく「プロレスラーになれなかった男」だろう。 

 三つ目としては、猪木本人に振り回された人びとの人柄の良さとそれ故つ困惑と面白さだ。 
 カリスマというのはこういうことなのだろうか。いささか考え込んでしまった。 

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