三浦雅士を再発見する
はじめに
当棚は、書評同人誌『鳥――批評と創造の試み』を母体とした、原則として期間を限定した特集を方針とする書棚です。
この度、当事務所から文芸評論家・三浦雅士さんについて論じた長篇評論『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』を勝手に刊行いたしました。ついてはそれを勝手に記念して、当該書籍と三浦さんの書籍を特集いたします。三浦雅士さんは、ご存じの方も多いと思いますが1970年代に『ユリイカ』『現代思想』の編集長としてご活躍され、80年代のニューアカデミズムブームを牽引したことで知られています。小著では、それに留まることなく文芸評論家としての業績を主としてご紹介しています。三浦さんのご著作とともに、お手に取っていただけると幸いです。
また、今回は本棚の出資者である「すずのさちこ」も最初の著書である『私の愛するものごといのち』を刊行いたしました。こちらも是非お手にお取りください。以上よろしくお願いします。
※①と②は今週の半ばにはPASSAGE店頭に並ぶことになりそうです。
③以下は棚の状況を見て出荷する予定です。
今回の出品目録
①すずのさちこ『私の愛するものごといのち』2025年・書物屋さちこ。
新品・300円。
ささやかな日常からかけがえのない存在まで、愛するもの・こと・いのちをテーマに表現したエッセイ集。伝説のデビュー作(になる予定)に是非お付き合いいただけたら。
②総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
鳥の事務所『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』2025年・鳥の事務所。
新品・2,200円。
三浦雅士の批評活動を多角的に分析する論考。彼は編集者としての手腕と独自の文体で科学・文学・哲学を横断する「文明批評」を展開した。「自分が死ぬこと」への恐怖を言語の発生と結びつけ、その批評は「批評的散文詩」ともいえる。特に、批評の核にある「放心と凝視」というテーマで、乗り越えるべき「父」である小林秀雄の核心を深く追究する。小林が示した普遍的な問いは、三浦を通じ、言語が生む「虚構」と人間の「孤独」を探求し、今なお批評の根幹をなす巨大な壁として立ち塞がっていると言えるだろう。 🐤鳥の事務所
③総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『私という現象――同時代を読む』1981年・冬樹社。
良い・帯付き・800円。
三浦雅士の鮮烈なるデビュー作。文学も実人生も虚構であることに変わりはない。事実そのものがすでに操作されたものなのだ。私をひとつの現象と見なす考え方は、文学作品の質を、それが事実に基づくかいなかによって判断しようとする立場を無効にする……。〈自我の崩壊〉ということ自体が主題となった現代文学の困難を的確に解説、〈現象としての自己〉の様々なありようを、物語の終焉を体現する作家達を通して考察した第一評論集。 🐤鳥の事務所
④総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『メランコリーの水脈』1984年・福武書店。
可・帯付き・カヴァー破れ少・小口汚れ・700円。
三島由紀夫、武田泰淳、大岡昇平、吉行淳之介、安岡章太郎、小島信夫、高橋和巳、井上光晴、大江健三郎、安部公房、筒井康隆の戦後作家11人を論じて、異質とみえる作家たちに共通するモチーフ、それは、自己に対する疎隔感による<メランコリー>であると解く。時代の深層を抉り、非現実化してゆく現代を分析して鮮やかに捉えた評論集。1984年・第6回サントリー学芸賞受賞作品。🐤鳥の事務所
⑤総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『出生の秘密』2005年・講談社。
良い・初版・帯付き・カヴァー汚れ少・1,500円。
漱石研究の新解釈。衝撃作『青春の終焉』に続く新たな地平――精神分析、現代思想から漱石、丸谷文学までを貫く“秘密”を論じて、読む快感の小説論! とりわけ、本書で注目すべきは中島敦の『北方行』並びに、今となってはほぼ忘れ去られると言ってよいパースの記号論への再評価である。結論から言えば、本来的に「出生の秘密」などありはしないのだ。しかし、人間は、そのありもしない自らの「出生の秘密」にこだわるのだ。まさにそれこそ「人間の秘密」とでもいうかのように。 🐤鳥の事務所
⑥総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士・鑑賞執筆、年譜編集『現代の詩人11 大岡信』1983年・中央公論社。
良い・初版・箱、付録付き・帯なし・1ページ折れあり、箱破損少・750円。
戦後から現代にかけて日本の詩壇を牽引してきたとも言える大岡信と谷川俊太郎の共編による、現代詩人の選集の一冊。編者・大岡信の詩のエッセンスを、三浦が詳細に鑑賞する。言うまでもなく、三浦と大岡は、三浦が詩誌『ユリイカ』編集長であった頃からの昵懇の仲。三浦の批評が詩のテキストを懇切丁寧に読み込む、というところに、その根源を持つことがまざまざと分かる一冊。 🐤鳥の事務所
⑦総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『身体の零度――何が近代を成立させたか』1994年・講談社選書メチエ。
良い・帯元々なし・しおり付き・750円。
纏足(てんそく)やコルセットのような不自然な風習を、なぜ私たちは続けてきたのだろうか。〈私〉をつくりだす源に、何があるのだろうか。謎はみなひとつのところから流れでている――。本書は、東西の豊富な文献を駆使して、泣きかた・笑いかた・行進・舞踊など人間の表情や動作に立ちむかう。そして、身体へのまなざしの変容こそが、近代の起点であることをあざやかに検証する。社会史・思想史のなかに、身体を位置づけた力作。1996年・第47回讀賣文学賞受賞作品。🐤鳥の事務所
⑧総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『自分が死ぬということ――読書ノート1978~1984』1985年・筑摩書房。
良い・初版・帯なし・750円。
本書は文芸評論家・三浦雅士の唯一の書評集である。元になっているのは、今は亡き『レコード芸術』誌に連載された「フィッシュ・アイ」という文芸コラムであるが、書題が暗示しているように、単なる書評を超えて、自身の主題に色濃く染められた、濃密な文章の集積である。小林秀雄の退場を示した「「深さ」の神話の崩壊」、あるいは「人称の不在――吉田健一の文体」など重要な文章が並ぶ中、取り分け、江藤淳を論じた「喪失の起原と起原の喪失」、電撃的な浅田彰の登場の意味を示した「荒々しさの意味」は白眉と言ってもよい。 🐤鳥の事務所
⑨総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『小説という植民地』1991年・福武書店。
良い・初版・帯付き・900円。
古井由吉、マーサ・グレアム、ホイックニーら、文学・美術から現代音楽・舞踏まで文化の様々な現象を精密に分析・解読し、時代の表層をおおう「個性」の神話の崩壊と西欧的思想・論理の限界を鋭く捉え、植民地文化の湾曲した時間と空間に新しい創造の可能性を見いだした力作評論集。とりわけ、小説という文学形式が植民地支配によって発生した所以を述べる表題作「小説という植民地」、レイモンド・カーヴァーの翻訳の文体から、階級問題まで遡及的に論じる「文学と階級」、楽器の、あるいは音楽の根源に打楽器、すなわちリズムを見る「思想としての打楽器」と、文明批評の色彩を濃く持つ論集である。1991年・第29回藤村記念歴程賞受賞作品。 🐤鳥の事務所
⑩総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『人生という作品』2010年・NTT出版。
良い・初版・帯付き・1200円。
私たちはいつから人生を一つの作品と考えるようになったのか? 白川静漢字学の新解釈、歴史と思想、小説、絵画、そして舞踊の最前線へ──。数々の作品を鮮やかに読み解き、批評の可能性をおしひらく珠玉の評論集。白眉は何と言っても、学会から公然と無視され続ける不世出の漢字学者・白川静の射程を論じた「白川静問題――グラマトロジーの射程」に尽きる。 🐤鳥の事務所
⑪総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『漱石――母に愛されなかった子』2008年・岩波新書。
良い・帯付き・370円。
漱石を生涯苦しめたのは「近代の不安」などではな
かった。それは母親の愛を疑うという、ありふれた、
しかし人間にとって根原的な苦悩であった。『坊っ
ちゃん』から『明暗』まで、漱石作品は徹底して
「出生の秘密」への問いにつらぬかれている──
現代を代表する文芸評論家がまったく新たな視点
から漱石作品の読みなおしをはかる。🐤鳥の事務所
⑫総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士「二つの名前を持つこと」所収『辻井喬=堤清二――文化を創造する文学者』2016年・平凡社。
良い・初版・帯付き・カヴァー汚れ少・1,200円。
西武セゾングループ総裁にして詩人・小説家であった堤清二=辻井喬についての講演「二つの名前を持つこと」を収録する。この講演は、そもそもは辻井の『父の肖像』文庫版に、三浦が寄せた解説を朗読する形で展開するが、三浦の作家論の中でもベストに入る完成度とも言いうる。それは、恐らく辻井を語ることは、どこか自身を論ずることに通じていたからに違いない。「二つの名前を持つこと」とは、まさに三浦自身のことなのだ。 🐤鳥の事務所
⑬総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『寺山修司――鏡の中の言葉』1987年・新書館。
良い・初版・帯付き・カヴァー汚れ少・900円。
人が子供時代、少年時代を懐しむのは、そこに自由が、可能性が渦まいていたからである。寺山修司が懐しい存在であり続けるのは、彼も同じ自由、可能性を示唆し続けたからである。寺山修司の作品を通して、彼を、そして「自分自身」を知ろうとする本。 🐤鳥の事務所
⑭総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『疑問の網状組織へ』1988年・筑摩書房。
可・初版・帯なし・カヴァー、小口汚れ少・800円。
書くことそのものを疑うこと、実は文学も思想も、世に流通する単なる商品でしかないと疑うこと、それは芸術作品を考えれば、まさに商品以外の何ものでもないことが明らかになる。まさにそこには現代社会のメディアと自己表出のような合わせ鏡として現出することを論じた文明批評。 🐤鳥の事務所
⑮総特集=『三浦雅士――人間の遠い彼方へ』刊行記念 三浦雅士を再発見する
三浦雅士『青春の終焉』2001年・講談社。
可・初版・帯付き・カヴァー汚れあり、本文折れ10ページほど、鉛筆書き込み消し跡あり・1,400円。
かつて人生の核心は青春にほかならなかった! 三島由紀夫、夏目漱石、小林秀雄、ドストエフスキー、太宰治らから滝沢馬琴に遡り、村上龍、村上春樹へ。近代日本の文学と思想を、鮮やかに解析する! 小林秀雄は、なぜ、青春にこだわらなければならなかったのか。秀逸な小林論でありながらそこにとどまらず、近代日本の文学・思想を博捜し、さらには江戸時代までさかのぼってスリリングに展開する画期的文芸評論。「日本近代文学は青春という病の軌跡にほかならない。その視点に立ってひとつの歴史が語られなければならないと考えた」著者の会心作。2002年・芸術選奨・文部科学大臣賞、2002年・第13回伊藤整文学賞受賞作品。
🐤鳥の事務所
以上、どうか宜しくお願いします。
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