悪の倫理学・覚え書き
その2
「きみは悪から善をつくるべきだ、それ以外に方法はないのだから」
You have to make the good out of the bad
because that is all you have got to make it out of.
ストルガツスキー兄弟「ストーカー」 /
ロバート・P・ウォーレン『All The King's Men』
悪とは何か。それはずれである。社会的な通念としての正義とずれが生じるところに悪が発生する。したがって根源的な意味での悪は存在しない。その意味では同様に語の本来の意味での正義も存在し得ない。
さらに視角を拡げるのなら価値の問題に我々はぶつかる。すなわち価値は内在しない、価値は他者との関係性においてのみ発生する。
しかしながら、ものなりひとなり、この世に存在するものはただ存在するだけでそれだけの価値があるとするというのはあまりにも情緒的すぎるであろうか。
したがって私自身の考えはこうだ。価値、という語が誤解を生むのであれば別の言葉に言い換えねばならないが、価値は内在する。正義や悪といった外的な尺度は時代や文化の通念の問題に過ぎない。終了。
ところが、我々がこの考察から立ち去りがたく思うのはなぜだろうか。それは、恐らく表層的な善悪と内在するとされている価値との懸隔を埋めたい、架橋したいという根源的な望みがあるからではないのか。つまり、我々が悪をなしてしまうのは根源的な善を希求しているからではないのか。無論、それはない、根源的な悪がこの世に存在しないように、根源的な善も存在しない。それはあたかも神や仏がこの世に存在しないのと同様に。
【参考文献】
・川上哲治『悪の管理学』1984年・光文社。
・柄谷行人『探究』Ⅰ・Ⅱ・1986‐89年・講談社。
・親鸞『歎異抄』。
・吉本隆明・加藤典洋「存在倫理について」/『群像』2002年1月号・講談社。
・プラトン『国家』。
・カントの著作。
・山岸凉子『日出ずる処の天子』1980‐84年・白泉社。
・ニーチェの著作。
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