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2017年2月15日水曜日

「わからなさ」を噛みしめること 加藤典洋『世界をわからないものに育てること――文学・思想論集』

↗加藤典洋を読む↗
「わからなさ」を噛みしめること
加藤典洋『世界をわからないものに育てること――文学・思想論集』






■加藤典洋『世界をわからないものに育てること――文学・思想論集』2016年9月28日・岩波書店。
■中・短篇評論集(文学・現代思想)。
■2017年2月9日読了。
■採点 ★★★☆☆
 
「……それで結局、いったい、おまえは何者なのだ?」
「私は永遠に悪を欲し、永遠に善をなすあの力の一部なのです。」(ゲーテ『ファウスト』)
――M・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』エピグラフ*

*本書 p.105。
 

    本書は昨年(2016年)の秋(8月~10月)3ヶ月連続で岩波書店から刊行された3冊の内の1冊である。
 優れた批評家の評論なりエッセイを読む愉しみとは未知の作品との出逢いであったり、旧知のものでも、未知の視角を与えられることだ。
 本書でも、柴崎友香『わたしがいなかった街で』、ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』といった未知の作者、作品からカズオ・イシグロ、村上春樹、大江健三郎といった旧知の作者への未知の視角が得られた。
 とりわけ、柴崎の「復元話体」の問題とブルガーコフについてはまさに驚きというしかない。虚を突かれたと云っても過言ではない。
 また同様に、イシグロの『わたしを離さないで』を原爆小説として読む視点、「テクスト論」批判、など大変興味深く読めた。
 しかしながら、本書を貫いているものは表題にもあるように、むしろ「わからなさ」ということだ。島尾敏雄と吉田満の対談に触れて、「その「わからなさ」を噛みしめることが、必要でもあれば、期待もされることである」*と述べているが、これは全体に渡って言いうることだろう。
 * 本書 p.12。

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