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2016年8月11日木曜日

筆者による村上春樹論の決定版が望まれる 加藤典洋『村上春樹論集②』

 ↗加藤典洋を読む↗  

筆者による村上春樹論の決定版が望まれる  

加藤典洋『村上春樹論集②』 







■加藤典洋『村上春樹論集②』2006年2月14日・若草書房。 
■短篇批評集(現代日本文学)。 
■2016年8月11日読了。 
■採点★★☆☆☆。 


 その都度書かれた村上春樹についての文章を集めたもの。 
 何やら街を歩いていてネオンやイルミネーションや店先のざわめきに吊られて歩いているうちにこうなったという趣でとりとめがないが、折々の筆者の興味を示していて面白い。 
  『風の歌を聴け』や『スプートニクの恋人』をそれぞれ論じた卓抜な作品論も収録されている*。 

 *当然ながら『イエローページ 村上春樹』PART1・2(1996年ー2004年・荒地出版社)と論点が被る点がいささかならず気になるか。 


 ただし短篇「眠り」を論じた「異質な眠りの感触」については大変興味深い論点を提出しているが「眠り」そのものの評価についてはいささかの異和感を覚えた*。 

*これについては別稿を立てる予定である。 

 しかしながら『村上春樹論集』とは銘打たれているものの、必ずしも村上春樹のみが論じられているわけではない、というのが若干の問題点か。 
 とりわけ「『海辺のカフカ』と「換喩的世界」」に至っては『海辺のカフカ』論というよりむしろテクスト批評批判であり、この本の中でも、批評的作品としてもバランスを失している。 
 その意味でも筆者による村上春樹論の決定版が望まれるところだ*。  

 *近著の『村上春樹は、むずかしい』(2015年・岩波新書)は小著ながら簡にして要を得た優れた作品である。 


「眠り」 
ライアル・ワトソン「生命潮流」 p.10 
救済があるはずの空白 p.24 
「外部」 根拠のなさ p.28 
中上健次『枯木灘』 p.64 

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