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2016年6月17日金曜日

廊 下

◇夢◇判◇断◇ 

 廊 下 
(改訂版) 


 広壮ではあるけれど、古惚けた旅館のバックヤードにいつの間にか紛れ込んだようだ。辺りはがらくた、と云うか、ほとんど塵(ごみ)ばかりはないのか。 
 わたし自身はその旅館の跡取り息子のはずだが、しかしながら、何をしたらいいのかさっぱり分からない。 

 さらに困惑することは先ほどからトイレを探していることだ。探し回っているのだが、この旅館の裏は廃屋かと思われるぐらい汚い。  
 この汚れ方と散乱の仕方は常軌を逸している。  
 トイレそのものも物置との兼用かとも思えるぐらい無数のがらくたが置かれている。作りもやわでペラペラのベニヤ板か何かで作られている。用をたすところもヘナヘナの状態だ。  
 さらに問題なのは肝心の紙がない。これは困った。   
 10分も20分も探し続けるが、何処にも紙はない。 
  
 そもそも俺は一体どこで寝たらいいのだ。  
 薄暗く長い廊下を彷徨い歩くと、部屋と部屋の間の隙間のようなところに無数の座布団が乱雑に積まれている。  
 これは例の、富士山の麓にある、社長の別荘の屋敷の広間の裏の隙間ではないか。こんなところにあの隙間があるとは思ってもみなかった。奇遇だな。 
 よし、ここなら大丈夫だ。今夜はここに寝ることにしよう。   

 帳場の辺りでは支配人のK**が実(まこと)しやかに女たちに自慢話をしている。女達は4、5人いて、先程来黄色い歓声を上げている。 
 要するにK**は自分が偉いのだということが言いたいだけなのだが、それにしても兎に角話が長いのだ。よくもそんなこと云えたものだと思えるぐらい、次から次へと、自慢話とは思えない形で、実は自慢話を繰り出してくる。呆れ返る、というよりも、それについては尊敬に値すると思えるくらいだ。 


  
 わたしは極限に居心地が悪い。居所がないとは全くもってこの事だ。  
 やむを得ず、ふらふらと旅館のなかを彷徨い歩く 。わたしは先程から気づいていたが、宴会場へと曲がる際のところにあたかも陥没したかのように階下への階段があることを思い出した。照明が乏しいが降りてみることにしよう。そもそもわたしは用を足せるトイレを探していたのだ。なんと階段を降りてすぐ右手のところにトイレがあるではないか。しかし、残念なことに女子トイレだった。 
 踊り場のところを左に曲がると銭湯の脱衣所のようなところに出た。天井がやたらと低い。恐らくここは天井裏なのだ。実際に縁台のようなもが何列も並べられていて、浴衣を着て寛いでいる老若男女が幾組もいる。よく見るとその広間の向こうにはガラスと湯煙越しに巨大な岩温泉が眼下に広がっている。 
 思わず、硝子戸を開けて、温泉の方に行こうとする。 

2016年6月9日初稿。 
2016年6月17日改訂。  

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